~現状分析~グランドデザイン策定、導入成功のポイントとは~
企業の持続的な成長には、事業活動の中核を支える基幹システムの存在が不可欠です。
しかし、長年の利用によりシステムが老朽化すると、業務効率の低下やビジネス環境の変化への対応の遅れといった課題が生じかねません。
本コラムでは、中堅企業の皆様が直面する可能性のあるシステム刷新について、なぜ必要なのかという基本のポイントから、具体的な進め方を通じた重要なポイントを解説いたします。
基幹システムとは?~基幹システム刷新の必要性と目的~
基幹システムとは、企業の事業活動の中核となる業務プロセスを支えるITシステムの総称です。具体的には、販売管理、生産管理、在庫管理、会計管理、人事給与管理など、企業が日々の業務を円滑に遂行し、経営目標を達成するために不可欠なシステムが含まれます。
基幹システムが停止してしまうと、企業の事業活動全体が停止してしまう可能性があります。そのため、基幹システムには極めて高い信頼性と安定性が求められるとともに、企業の成長や変化に合わせて柔軟に対応できることが求められます。
・老朽化しているかの確認ポイント
現在利用している基幹システムが老朽化しているかどうかを判断するための重要な兆候がいくつか存在します。例えば下記のような状況がそれに当たる可能性があります。
・システムの処理速度が以前に比べて明らかに遅くなり、従業員の業務効率が低下している
・システム障害が頻繁に発生し、その度に重要な業務が中断されるような状況が発生している
・新しいビジネスモデルや市場の変化に対応するためにシステムの改修を試みても、ブラックボックス化したシステムのために対応が困難である
・システムを管理していた担当者が高齢化し、社内でシステム管理の人材がおらず対応が難しい状況になっている
・運用・保守を依頼しているベンダーへのコストが年々増加し経営を圧迫している
昨今より経済産業省が「2025年の崖」と警鐘しているように、数十年以上にわたって利用している基幹システムが、経営や業務のボトルネックになっている状況があれば、早急なシステム刷新の検討が必要となります。
・基幹システムの目的
基幹システムは経営判断に必要な情報を統合的に管理することで、データドリブンな経営スタイルや、高度な現状の可視化の可能性を高めます。システム刷新の場合はその影響も大きいものです。そのため、基幹システムに対して自社がどのような目的をもって利活用をするべきか、その目的を改めて確認することも重要です。
ここで強調したいのは、あくまでもシステムは手段であり、目的ではない点に注意をしていく必要があります。
基幹システムを変更するとなった場合には、企業に応じてその目的は様々です。
・業務効率化と生産性向上
最新のシステムを導入することで、これまで手作業で行っていた煩雑な業務を自動化したり、複雑な承認プロセスを効率化したりすることが可能になります。これにより、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになり、企業全体の生産性向上に大きく貢献します。
・デジタルトランスフォーメーション(DX)推進
デジタル技術を積極的に活用して、企業のビジネスモデルや業務プロセスを根本的に変革し、新たな価値を創造することがDXの主要な目的です。基幹システム刷新は、データ分析基盤を強化し、AIやIoTなどの多用なデータ連携を容易にし、より高度な意思決定を可能にします。
・企業競争力の強化
最新のIT技術を搭載した基幹システムは、市場の変化や顧客ニーズの変動に迅速に対応するための高い柔軟性を提供します。これにより、企業は新しいビジネスチャンスを逃すことなく、競合他社に対して明確な優位性を確立することができます。
・コストの最適化
一見すると、システム刷新には多額の初期投資が必要となるように思えますが、長期的な視点で見ると、老朽化したシステムの維持・運用にかかる高額なコスト、頻繁なシステム障害による業務停止の損失、非効率な業務プロセスによる無駄な人件費や追加の開発コストなど削減することができます。
・データドリブン経営の実現
最新の基幹システムは、企業のあらゆる業務から生成されるデータを一元的に管理し、リアルタイムでの分析を可能にします。これにより、経営層は勘や経験に頼るだけでなく、客観的なデータに基づいて、迅速かつ精度の高い意思決定を行うことができます。
このように、旧来のシステムを見直すタイミングで、本来実現したいこと、解決すべき問題を踏まえた上で、システム刷新を通じたメリットと目的を合致させていくことが必要となります。市場や消費ニーズ、テクノロジーの進化が目覚ましい中で、中堅・中小企業にとって、自社のビジネスモデルを持続的に成長させていく上で、システムの刷新は重要なメリットをもたらします。
システム刷新、何から始める?現状分析を通じたグランドデザインの策定の進め方
基幹システム刷新を成功させるためには、いきなりシステムの選定や導入に着手するのではなく、まず自社の現状を正確に把握し、「あるべき姿」を描くことが極めて重要です。この「あるべき姿」を描くプロセスが、システム構成や業務プロセス全体最適化の構想となるグランドデザインの策定です。
1. 業務プロセスの可視化と課題の特定
各部門の業務内容、データやシステムの利用状況を洗い出し、業務フロー図などを作成して現状を把握します。この現状分析の段階では、現場管理者を中心に、現場担当者にも直接ヒアリングを行い、現状の業務で実施している業務内容から、日々の業務の中で、取り組まれている工夫している点や問題など、どのような点に非効率を感じているのかをヒアリングします。
②現行ITシステムの利用状況についての把握
次に、現在利用しているITシステム全体の把握を行います。これまで部分最適で導入を進めているような場合には、目的に応じて中核となる基幹システムだけでなく、周辺で利用しているシステムまで領域を拡げて把握するケースもあります。重要なポイントは、システムの老朽化の度合い、いわゆる技術的負債の大きさ、他のシステムとの連携状況のスムーズさ、保守や運用にかかるコスト、そして将来的な拡張性などです。
③自社のあるべき姿を描く:目的に基づいた To-Be モデルの設計
現状分析を通じて、明確になった自社の課題に対して、システム刷新の観点から自社が将来的にどのような姿を目指すべきかを描きます。これがTo-Be モデルの設計と呼ばれるプロセスです。この設計においては、現状の課題を解決するだけでなく、将来のビジネス環境の変化や企業の成長戦略に対応できるような、柔軟で効率的なモデルを検討することが重要です。
➃システム導入計画の策定
自社のあるべき姿、すなわちTo-Be モデルを設計し、具体的な刷新計画を立てる段階に入ります。
いきなりシステムの刷新や導入から着手するのではなく、現状の把握と分析通じてあるべき姿を描くことで、システム導入フェーズにおいても、「目的」に立ち返る拠り所となるドキュメントを言語化することが重要になります。
基幹システム刷新を成功させるためのアプローチ
基幹システム刷新を成功に導くためには、段階的かつ計画的にプロジェクトを進めることが重要です。ここでは、そのための4STEPについて解説します。
➀システムベンダー選定と導入準備
システム刷新でその後の成功を左右するのが、ベンダー選定になります。ベンダーがこれまで導入してきた同業種での実績や最新技術への対応力、経営状況やサポート体制を踏まえつつ、専門性と実績、技術力と将来性から見極めていくことが重要となります。自社の目的に見合うシステムの情報収集にはRFI(情報提供依頼書)を活用し、候補を絞り込みます。RFIで得た情報をもとに、RFP(提案依頼書)で具体的な提案を要求。業務要件、機能・非機能要件、計画、予算を明記し、提案内容の実現可能性や費用対効果を総合的に評価します。RFI/RFPを使いこなすことで、最適なベンダー選定が可能になります
②自社が実現したいシステムに向けた要件定義のポイント
ベンダーが決定したら、いよいよ要件定義のフェーズに入ります。要件定義は、システム刷新プロジェクトの成否を左右する最も重要な工程の一つであり、ここで定義された内容が、その後のシステム開発や導入の方向性を決定づけます。要件定義の極意は、自社の業務要件やシステムに求める機能を明確かつ具体的に伝え、ベンダーとの間に認識の齟齬がないようにすることです。
要件定義を行う際には、文書だけでなく、図やプロトタイプ(試作品)なども活用しながら、イメージの共有を図ることが重要です。各部門の担当者も積極的に参加させ、現場のニーズを正確に反映させることが不可欠です。また、現行システムの課題や改善点だけでなく、将来的な事業展開やビジネスの変化も見据えた要件を定義する必要があります。定義された要件は、文書化し、関係者全員で合意形成を行うことが重要です。
③スムーズなデータ移行とシステム構築
システム刷新におけるデータ移行は、多くの企業が頭を悩ませる課題の一つです。旧システムから新システムへ、大量のデータを正確かつ安全に移行するためには、事前準備と戦略が必要です。まず、移行するデータの範囲、形式、量などを正確に把握します。データの品質を評価し、不要なデータや不整合なデータは移行前に整理(クレンジング)します。データの移行方式としては、一括移行、段階的移行、並行移行などがありますが、システムの特性や業務への影響を考慮して最適な方式を選択します。自社の事業規模、業務の特性、IT部門の体制などを考慮して、選択することが重要です。
・段階的導入
段階的導入は、新システムの一部機能や部門から徐々に導入する方式です。業務への影響を抑え、導入後の問題を早期に発見・対応できる利点があります。また、従業員が新しいシステムに慣れるための時間的余裕が生まれます。
・一括導入
一括導入は、新システム全体を同時に稼働させる方式です。導入期間を短縮でき、システム移行後の運用が比較的スムーズに進むというメリットがあります。
➃新規システム導入のためのテスト実施
新しい基幹システムの品質を確保するためには、徹底的なテストが不可欠です。テストは、システムの開発段階から導入直前まで、複数の段階に分けて実施されます。主なテストは下記のような種類があります。
( 単体テスト、結合テスト、システムテスト、受け入れテスト)各テスト段階において、テスト計画を事前に策定し、テストケースを作成し、テスト結果を記録・管理することが重要です。
3.本稼働に向けた準備と運用開始
・ユーザー教育とトレーニング:新システムを使いこなすための運用強化
新しい基幹システムをスムーズに運用開始するためには、エンドユーザーである従業員への適切な教育とトレーニングが不可欠です。従業員が新しいシステムを使いこなせるようになることで、導入効果を最大限に引き出すことができます。
・移行時のサポート体制
新しいシステムへの移行時には、予期せぬトラブルが発生する可能性があります。これらのトラブルに迅速かつ適切に対応するためには、ベンダー側のサポート体制を確認しつつ、社内のレポートラインを事前に整備しておく必要があります。
・運用後の課題発見と再構築に向けた改善サイクル
新しい基幹システムの運用が開始された後も、そこで終わりではありません。実際にシステムを利用していく中で、新たな課題や改善点が見えてくることがあります。これらの課題を放置せず、定期的にシステムの評価を行い、必要に応じて機能の追加や修正など、再構築に向けた改善サイクルを回していくことが、システム刷新の成功を持続させるための重要なポイントです。
基幹システム刷新を成功させ、持続的な成長を実現するために
本コラムでは、基幹システム刷新の必要性から具体的な進め方のポイントを詳しく解説してきました。システム刷新は決して容易な取り組みではありませんが、本コラムでご紹介した進め方と注意点をしっかりと理解し、計画と準備を行うことで、失敗のリスクを最小限に抑え、成功へと導くことが可能です。
レガシーシステムからの脱却は、単なるシステムの置き換えではなく、企業の業務プロセス全体を見直し、最適化する機会にもつながります。最新のIT技術を積極的に活用し、データに基づいた経営を実践することで、業務効率の向上、コスト削減、そして競争力の強化を実現することができます。
システム刷新を成功させるためには、経営層の強いコミットメント、各部門との連携、そして信頼できるベンダーや外部企業とのパートナーシップが重要です。本コラムが、皆様のシステム刷新プロジェクトの成功に向けた一助となれば幸いです。