岩松将史【船井総合研究所】
多くの企業にとって、ERP(Enterprise Resource Planning)システムの導入は、業務効率化や経営判断の迅速化を図るための重要な経営戦略です。しかし、高額な投資にもかかわらず、その導入は失敗に終わるケースも少なくありません。なぜ失敗してしまうのでしょうか。それは、単に最新のシステムを導入すればよいという誤解や、計画性の欠如が主な原因です。本コラムでは、ERPシステム導入を成功に導くための3つのポイントを解説します。
ポイント1:目的を明確にする
「なぜERPを導入するのか」という問いに対し、明確な答えを持つことが成功の第一歩です。多くの失敗事例では、「他社が導入しているから」「業務効率化のため」といった漠然とした理由しかありません。これでは、導入するシステムが自社の課題解決に本当に役立つのか、誰も判断できません。
まずは、現状の業務フローを詳細に分析し、どこに非効率な点があるのか、どんな課題を抱えているのかを具体的に洗い出しましょう。 たとえば、「部門間のデータ連携が遅く、情報共有に時間がかかる」「在庫管理が属人化しており、正確な在庫数が把握できない」といった具体的な課題を特定します。
この課題を解決するために、ERP導入によって何を達成したいのか、具体的な目標を設定します。 「部門間の情報共有にかかる時間を30%削減する」「在庫管理の精度を95%に向上させる」といった、数値で測れる目標が理想的です。この目的と目標が明確になることで、導入するシステムの選定基準が定まり、プロジェクトメンバー全員が同じ方向を向いて進むことができます。
ポイント2:現状業務と導入システムをすり合わせる
ERPシステムは、多岐にわたる業務プロセスを統合管理できる一方、その機能はパッケージ化されていることがほとんどです。自社の業務プロセスに合わせたカスタマイズも可能ですが、過度なカスタマイズは費用が増大するだけでなく、システムのアップデートが困難になるなどのデメリットを生み出します。
導入失敗の多くは、自社の業務をシステムに合わせることを拒み、システムを自社の現状に合わせようとしすぎることで起こります。成功の鍵は、「システムに業務を合わせる」という発想の転換です。
まずは、導入を検討しているERPシステムが持つ標準的な業務フローを理解しましょう。次に、自社の業務フローをこの標準的なフローにどこまで合わせられるかを検討します。この際、「この業務は本当に必要なのか?」「標準的なフローに合わせることで、かえって効率が上がるのではないか?」という視点で、業務プロセスそのものを見直すことが重要です。これを「業務改革(BPR:Business Process Re-engineering)」と呼びます。
この業務改革を怠ると、導入後も古い業務プロセスが温存され、システムを十分に活用できず、結果として期待した効果が得られないことになります。
ポイント3:社内の巻き込みとプロジェクト体制の構築
ERPシステムの導入は、単なるITシステムの導入という観点ではなく、全社的な経営改革・業務改革にも通ずるプロジェクト業務です。一部の部門や担当者だけで進めても、利用部門からの協力が得られず、最終的にシステムが定着しないという事態に陥ります。
プロジェクトを成功させるためには、経営層が強いリーダーシップを発揮し、全社的なプロジェクトとして位置づけることが不可欠です。 経営層が「なぜこのシステムが必要なのか」を社員に語りかけ、プロジェクトの重要性を浸透させることが、社員のモチベーション向上につながります。
また、各部門からプロジェクトメンバーを選出し、主体的にプロジェクトに関わってもらうことも重要です。現場からのボトムアップによる課題や要望をプロジェクトに反映させることで、現場が活用するシステムになります。さらに、導入後もスムーズに運用できるよう、「誰が、いつまでに、何をするのか」を明確にした体制を構築しましょう。 ヘルプデスクの設置や、運用マニュアルの整備も、システム定着には欠かせません。
これらのステップを踏むことで、ERPシステムの導経営層が強いリーダーシップを発揮し、全社的なプロジェクトとして位置づけることが不可欠です入は単なるツール導入にとどまらず、企業文化や業務プロセスそのものを変革する機会となります。成功への道筋をしっかりと描き、一歩ずつ着実にプロジェクトを進めていきましょう。