会計システムの刷新の重要性~会計システム刷新が今、なぜ求められるのか
企業経営において、会計システムは単なる経理業務のツールではありません。経営戦略を立案し実行するための重要な情報基盤となります。
従来の会計システムでは、日々の取引記録や決算業務の遂行に留まり、経営層が必要とするタイムリーな情報提供や、将来予測に資するデータ分析までの対応は難しいケースが多く、まだ煩雑な作業が発生するなど、経営判断の遅れや機会損失を招く可能性があります。
現在の会計システムは財務会計と管理会計の両方の役割を統合し、経営の「今」と「未来」を可視化する役割をになうべき重要なツールです。
本コラムでは、中堅企業が会計システムの刷新を成功させるポイントをシステムの選定から課題解決の具体的な施策まで解説します。
DX戦略と会計システムの役割
DX戦略において、会計システムは極めて重要な位置を占めます。
なぜなら、企業のあらゆる活動は、最終的に数値として会計情報に集約されるからです。
例えば、新しい事業を立ち上げる際、その事業の採算性を迅速に評価するためには、リアルタイムでの収益・費用分析が必要不可欠です。また、顧客行動データを分析し、マーケティング戦略を最適化する際にも、販売実績や顧客単価といった会計情報が重要な要素となります。しかし、部門ごとに異なるシステムを利用していたり、データ連携が不十分であったりする場合、これらの分析は非常に難しく、困難になります。
DXグランドデザインを策定する際には、情報連携のハブとなる会計システムの役割を明確にし、他システムとの連携戦略を綿密に設計することが肝要です。会計システムが、販売、生産、人事などの基幹システムとシームレスに連携することで、企業全体のデータが統合され、一元的な管理・分析が可能になります。これにより、経営層はより多角的な視点から企業活動を把握し、データに基づいた迅速かつ的確な意思決定を下せるようになります。会計システムは、まさにDXの成否を左右する「中核」といえるでしょう。
経営戦略との連動した会計システム領域のグランドデザイン策定の重要性
会計システム刷新は単なるITプロジェクトではなく、経営戦略と深く連動する取り組みとして位置付けるべきです。
最初に「なぜ会計システムを刷新するのか」「刷新によって何を達成したいのか」という目的を明確にすることが重要です。
この目的は、業務効率化に留まらず、「新規事業の創出を加速する」「グループ経営の管理を強化する」「M&A後の迅速な統合を実現する」といった、
具体的な経営目標と紐づける必要があります。会計システム刷新をする上でグランドデザインの策定は重要になります。
グランドデザインとは、企業の将来のあるべき姿を描き、それを実現するためのIT戦略全体を俯瞰的に計画することです。
これには、現在の業務プロセス、情報システム、組織体制の現状分析から始まり、あるべき業務プロセス、情報システム、組織体制の設計が含まれます。
この段階で、財務会計と管理会計の両面から、どのような情報が必要で、どのように収集・分析・活用していくのかを具体的に定義します。
具体的には、経営会議で必要となるレポートの種類、月次決算の早期化目標、予算実績管理の粒度などについて今の実態と本来目指す指標を照らし合わせ、
プロジェクトメンバーと経営層とが連携しながら決定します。また、既存システムの課題点を洗い出し、それが将来のビジネスに与える影響を検討します。
このグランドデザインが明確でなければ、導入するシステムの選定基準が曖昧になり、結果として経営戦略と乖離したシステムが構築されてしまうリスクがあります。
超上流工程で経営層が積極的に関与し、ビジョンを共有することが、会計システム刷新の成否を大きく左右します。
会計システム導入における具体的なポイント
自社に最適なパートナーを見つけるシステム選定とベンダー選びの基準
自社のグランドデザインとなる方向性と課題を把握した後に、自社に最適なパートナーを見つけ、導入するシステムを検討します。
会計システム選定で最も重要なのは、自社の経営戦略と業務プロセスに最適なシステムを選ぶことです。
パッケージシステム、クラウド型システム(SaaS)、スクラッチ開発など、様々な選択肢がありますが、それぞれにメリット・デメリットが存在します。
例えば、クラウド型会計システムは初期導入コストを抑えられ、どこからでもアクセスできる利便性、常に最新の機能が提供されるといったメリットがあります。
中小企業から中堅企業まで幅広い企業で導入が進んでいます。一方、高度なカスタマイズが必要な場合は、パッケージシステムやスクラッチ開発が選択肢となることもありますが、
スクラッチ開発はコストと時間がかかるため、慎重な検討が必要です。
システムを選定する際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
➀機能要件: 財務会計、管理会計、固定資産管理、債権債務管理など、必要な機能が網羅されているか。
②非機能要件: セキュリティ、パフォーマンス、拡張性、保守性などが満たされているか。
➂他システムとの連携性: 販売管理システム、生産管理システム、人事給与システムなど、既存の基幹システムとの連携がスムーズに行えるか。
➃導入実績とサポート体制: 同業他社での導入実績があるか、導入後のサポート体制は充実しているか。
⑤コスト: 初期導入費用、運用保守費用、将来的な機能追加にかかる費用など、TCO(Total Cost of Ownership)を考慮する。
ベンダー選びも同様に重要です。単にシステムを導入するだけでなく、導入後の運用支援や、経営課題に対する支援能力を持つベンダーを選ぶべきです。
複数のベンダーから提案を受け、比較検討を行うことで、自社に最適なパートナーを見つけることができます。
スムーズなシステム稼働のためにデータ移行とテスト計画
会計システム刷新において、データ移行は非常に繊細かつ重要なプロセスです。
データ移行計画は、移行するデータの範囲、データ形式、移行方法、移行スケジュール、そしてデータクレンジングのプロセスを明確に定義する必要があります。
特に注意すべきは、データクレンジングです。
長年蓄積されたデータの中には、重複データ、誤ったデータ、古いデータなどが含まれている可能性があります。これらを事前に整理・修正することで、新しいシステムにクリーンなデータを取り込み、その後の運用をスムーズにします。データクレンジングは手間と時間がかかる作業ですが、ここで手を抜くと、システム稼働後に大きな問題を引き起こす可能性が高いため、十分なリソースと時間を投入すべきです。
また、テスト計画もシステム稼働の成否を分ける重要な要素です。単体テスト、結合テスト、総合テスト、そして本番環境を想定した受入テスト(UAT:User Acceptance Test)など、多段階でテストを実施します。特にUATでは、実際の業務担当者が新しいシステムを操作し、想定通りの機能が動作するか、業務フローに問題がないかなどを確認します。この段階で発見された不具合や改善点は、システム稼働前に修正することで、リスクを最小限に抑えることができます。テストデータは本番環境に近いものを準備し、様々なケースを想定したシナリオを作成することが重要です。
システムを最大限に活用するための運用と継続的改善
会計システムは、導入して終わりではありません。むしろ、導入後の運用こそが、利活用につなげる重要なフェーズになります。
まず、システム運用ルールを明確に定義し、担当者を配置することが重要です。データ入力のルール、レポート作成の手順、システム障害発生時の対応フローなどを文書化し、関係者間で共有します。また、システム管理者や主要なユーザーに対して、定期的な研修を実施し、新しい機能や改善点の情報共有を行うことで、システムの利用促進を図ります。
さらに、システムは経営環境の変化や技術の進化に合わせて、機能追加や改修が必要になることもあります。運用開始後もシステムの機能強化や業務プロセスの見直しをPDCAサイクルを回しながら継続的に行います。システムのパフォーマンス監視、セキュリティパッチの適用、バックアップ体制の確立なども、安定運用には欠かせない要素です。
システム利活用し、継続的な「攻めの会計」に向けて
このように会計システムに限らず、システムの刷新は新しいシステムを導入すればそれで終わりではありません。
多くの場合、既存の業務プロセスがシステムの特性に合致しない、あるいは非効率なプロセスとなっていることがあります。システム導入を機に、これらの業務プロセスを徹底的に見直し、改革することが求められます。これを「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」と呼びます。
例えば、紙ベースで行われていた承認フローを電子化したり、手作業で行っていたデータ入力作業をRPA(Robotic Process Automation)で自動化したりするなど、デジタル技術を最大限に活用して業務効率を向上させます。また、部署間の連携が不十分であったり、重複する業務が存在したりする場合には、システム導入を通じてこれらの問題を解決し、組織全体の生産性を高めることができます。
このような継続的な取り組みを通じて、会計システムは自社の経営戦略に合った利活用できる経営管理の基盤として、企業の成長を支え続けることができます。
近年は経営の意思決定を加速させ、データドリブン経営を推進する「攻めの会計」へと進化しています。会計システム刷新は、DX戦略を強力に推進し、中堅企業が変化の激しい時代を勝ち抜き、持続的な成長を実現するための重要な基盤となるでしょう。貴社が会計システム刷新を通じて、新たな経営フェーズへと踏み出す一助となれば幸いです。
クラウド会計導入で業務効率化は可能です。しかし、多機能なシステムの中から貴社に最適なものを選び、導入を成功させるには、重要なポイントを押さえる必要があります。
もし自社内だけでは難しいという場合には外部サービスを頼るのも賢い方法です。ご興味がございましたら下記よりお気軽にご相談をお寄せください。